米津玄師『Azalea』解説【歌詞編】【2番】

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今回は、米津玄師の楽曲『Azalea』の2番の歌詞について解説していきます。

眩むように熱い珈琲
隙間ひらく夜はホーリー
酷い花に嵐 その続きに
思いがけぬストーリー
どうやら今夜未明 二人は行方不明
積み重なるメッセージ
そのままほっといて

『眩むように熱い珈琲』。これについては、リリース後のインタビューにて本人がヒントになり得そうなコメントをしていたので、紹介します。

冬場に温かいコーヒーとか熱いコーヒーを一発飲むと、あの幸福感っていうのは他で例えようがないものがあるなって感じがするので、曲に込めたらいいなあっていう風には思ったりはしましたね。

インタビューのコメントを参考にすると、『眩むように熱い珈琲』この1行は他で例えようがない特別な幸福感を表現していると考えることができますね。また、このインタビューからこの楽曲中の季節は冬であると仮定して話を進めていきます。

『隙間ひらく夜はホーリー』。冬の夜の空気は完全に澄み切っていて、そこに神聖さが宿っているように思えます。『隙間ひらく』という言葉と組みあわさることによって、窓が少し開いていて、その僅かな隙間から冬の澄み切った空気が流れ込んでいるのかなと想像できます。隙間風で少し冷えた部屋だからこそ、熱い珈琲が、目が眩むような幸福感をもたらしてくれるのかもしれませんね。

『酷い花に嵐』。花に嵐とは、慣用句の『月に叢雲 花に嵐』から来ているものだと思われます。意味は『世の中の好き事にはとにかく差し障りが多い』です。好き事とは色恋沙汰、差し障りとは都合の悪い事を意味します。

恋愛は、自分のコント―ロール可能な領域から大きく外れた現象であるという風に捉えています。制御が利かないからこそ『思いがけぬストーリー』が生まれて、それがかけがえのない思い出になったりするのですが、そこは表裏一体で、中には見ていられないくらいグロテスクな状況に陥る場合もあるわけです。

『どうやら今夜未明 二人は行方不明 積み重なるメッセージ そのままほっといて』。これはドラマの場面に似たような箇所がありました。ネタバレになるので割愛させていただきます。

目を見つめていて
もう少し抱いて ぎゅっとして
それはクリムトの絵みたいに
心臓の音を知ってエンドルフィン
確かに続くリフレイン
ずっとそこにいたんだね

『それはクリムトの絵みたいに』。クリムトとは、19世紀末から20世紀後半にかけて活躍したウィーン最大の画家のことです。「愛と官能の画家」と呼ばれる程に、彼の描く女性像は妖艶な美しさを纏い、現在も多くの人々を虜にしています。クリムトの作品には単に女性の妖艶さを描いたものだけではなく、肉体的な触れあいを描いたものも多く残されています。『もう少し抱いて』『ぎゅっとして』などの肉体性を持った感覚を想起させるような表現は、クリムトの絵に繋がる部分があります。

クリムト作:接吻  ソース

遣る瀬ない夜を壊して
感じたい君のマチエール
縺れ合うように
確かめ合うように 触って

『感じたい君のマチエール』。マチエールとは『絵の具を塗り重ねたときの膨らみや絵の質感を意味する言葉』です。質感は実際に触れて初めて分かるものです。この楽曲では、恋愛における物理的な交流を示唆するような表現が多く盛り込まれており、実際インタビュー内でもそのことについて本人もコメントを残しています。

本当の意味で愛していくためには、一面的ではなく多面的に、そして深く相手のことを知ることが重要で、そのためには質感が分かるくらいの物理的距離の近さで相手のことを知ることが必要です。

『縺れ合うように』とはまさに、お互いの境界線が曖昧になるくらいに溶け合って、物理的・精神的な距離が極限までに近くなっていることを表現しているのではないでしょうか。

せーので黙って
何もしないでいてみない?
今時が止まって見えるくらい
君がどこか変わってしまっても
ずっと私は 君が好きだった
泡を切らしたソーダみたいに
着ずに古したシャツみたいに
苺が落ちたケーキみたいに
捨てられない写真みたいに
そこにいてもいなくても
君が君じゃなくても
私は君が好きだった
君はアザレア

『泡を切らしたソーダ』も『苺が落ちたケーキ』も、重要な構成要素が抜け落ちているという点で共通しています。『着ずに古したシャツ』と『捨てられない写真』には、時と共に性質が変化していくイメージを持ちました。古したシャツも捨てられなくて時間が経った写真も、色あせて、特有の匂いを持つようになります。

人も物も、時が経つにつれて少しづつ形を変えていきます。それは自然の摂理で避けられないもの。
変化を受け入れて、変わっていくことを前提にしてその人のことを愛していく。最後の4行にその思いが込められているように思います。彼の表現したかった愛が随所に盛り込まれた、素晴らしい楽曲でした。

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